★【東本貢司のFCUK!】「ナンバー6」から時代は動く

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▽「マッチナンバー制」が事実上の死語となって久しい。その昔(といってもほんの20年ほど前までだが)、ピッチに登場するイレヴンの背番号は「1~11」と決まっていた。

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▽「マッチナンバー制」が事実上の死語となって久しい。その昔(といってもほんの20年ほど前までだが)、ピッチに登場するイレヴンの背番号は「1~11」と決まっていた。それが、主に主力プレーヤーの特定のナンバーに対する愛着(先頃亡くなったヨハン・クライフが終生こだわり続けた「14」など)と、プレーヤー名をナンバーの上に縫い付ける習慣の定着によって、より扱いやすく理に適った「スクォド(チーム)ナンバー制」にほぼ完全移行した。ルール(の統一)によってそうなったのではない。便宜上「20年ほど前まで」とは言ったが、今でも一部の国の下位ディジョンでは“由緒正しい”マッチナンバー制を敷いているクラブチームもあるにはある。とはいえ、主にトップクラブ間でのプレーヤー層の増大、さらには、頻繁に出入りする外国人プレーヤーの増加などもあって、「番号=名前」のアイデンティティー確立は、ファンサービスの意味でも望ましいことなのだろう。

▽しかし、年々進化とアレンジメントが語られるこのスポーツの戦術論、それに基づくフォーメーション論議の中にあって、“旧”マッチナンバーとそれぞれが示唆するピッチ上での役割は“健在”、かつ有用で奥深い。「役割」である。「ポジション」に限った話ではない。例えば「ナンバー6」と言うとき、それは今でいう「中盤の底」、あるいはどこぞの国辺りで“独り歩き”している感のある「ボランチ」を指す―――と、たぶん多くのファンは“即刻”理解するだろう。では、先日マンチェスター・ユナイテッドの新監督、ジョゼ・モウリーニョが宣った、こんな一節を聞けばどうだろうか。「ウェイン・ルーニーはミッドフォールダーではない」そして続けて「彼はナンバー6ではない。ましてやナンバー8でもない」。無論イメージ上の“位置”は「底」や「ボランチ」と同期するだろう。が、ジョゼ君がそんなフォーメーション図上の“置き場所”を述べているのではないのは言うまでもない。それは、この「ナンバー6」ほど適性が問われる役割だからに違いない。

▽戦術上「ナンバー6」には他の誰よりも広い視野とそれに基づく機転が求められる。常に状況を把握し、展開を予測した位置取りを心得、スペースを意識して中盤を広く気を配る。必然的に“彼”はいついかなる時でも“そこ”にいる、いわば“軸”のような存在であるのが望ましい。端的に言って、ルーニーは動きすぎるのだ。ユーロでのイングランドを改めて振り返ってみると思い当たる節もあるはずだ。ルーニーの“動く幅”が大きいために、周囲のチームメイトが彼の位置を探す“間”にブレが出来て、流れに乗っていけないシーンが幾度もあった。ショートパス主体のどちらかといえばゆったりした戦法をとる敵ならば、それでもキズは少なくて済むかもしれない。だが、スピードとロングボールを前面に打ち出すチームを相手にしたときは・・・・。ショッキングな対アイスランド敗戦の最大の原因がそこにある。とどのつまり、ホジソンはせっかくのルーニーの能力をふいにしたどころか、適性外の重責を押し付けてしまった・・・・モウリーニョはそれを“非難”したのだ。

▽ところで、直近でこれはと思う「ナンバー6」といえば、そう、ミラクル・レスターのエンゴロ・カンテ。初めてカンテのプレーを見たとき、筆者が真っ先に思い出したのはクロード・マケレレだったが、これは単に体型の類似だけのことなのだろうか。いずれにせよ、ざっと見渡してみてカンテ以外に、これは絵に描いたようなナンバー6だと納得がいく比較対象がはたと思いつかないのには少々愕然と・・・・(観察範囲が偏っているからかもしれないが)。そして、そのカンテがチェルシーへ移籍が決まったというニューズにはいささか耳を疑ってしまった。請われた先がバルサやレアル、バイエルンやユヴェントスというのならわかるが、チェルシーとは! レスターは勇躍チャンピオンズリーグに参戦するがチェルシーにはヨーロッパリーグ出場権すらないのである。カンテの思惑たるや、いずこに? が、裏を返せば天晴というべきかもしれない。今日日はネコも杓子も(訳知り顔の外野まで)「チャンピオンズに出るか出ないか」をキャリアアップのだしに使う時代である。そして、これは一種の連想ゲームっぽい戯言だが、モウリーニョの“影”がここにも!

▽実はこの数日間、あっと驚く移籍スクープが飛び出してくるような予感がしていたのだが、それはまだ少し先の話になりそうだ。代わりにやってきたのが、先ほど言及したジョー・アレンのストーク移籍と、サム・アラダイスのイングランド代表監督就任(ともに内定)。前者は、昨日公にされたエストニア代表キャプテン、ラグナル・クラヴァンのリヴァプール入りと関係がありそうだが、アラダイスの方は(本コラムでも触れたように)ほぼ規定事項。本決まりにしばらく手間取ったのは、サンダランドが渋っていたらしい。そしてアラダイス就任で俄然、スリーライオンズは“原点”に立ち返った再生の機運が高まりそうだ。やや穿った言い方をするなら、キーワードはまさに「アイスランドに見倣え!」。スペインの衰退ムードや、イタリアが披露したシンプル殺法とも相まって、世の流れは「ネオ・キック&ラッシュ」時代へ? おっと、その前触れはすでにレスターが“証明”してたっけ。さて、グァルディオラとモウリーニョはそこに何をどう関わってくるのだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

2016年7月21日(木)10:35

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