★【東本貢司のFCUK!】レスターとフォレストの相似形

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▽プレミア王者レスター・シティーのここまでの戦績を見ていると、なにやらかつてブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの姿がちらついてきた。1977-78シーズン、2部から昇格したばかりのフォレストは、怒涛の快進撃で2位リヴァプールに7ポイント差をつけて1部初優勝を果たした。

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▽プレミア王者レスター・シティーのここまでの戦績を見ていると、なにやらかつてブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの姿がちらついてきた。1977-78シーズン、2部から昇格したばかりのフォレストは、怒涛の快進撃で2位リヴァプールに7ポイント差をつけて1部初優勝を果たした。ちなみに3~5位は、エヴァートン、マンチェスター・シティー、アーセナルで、6位に入ったウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンとともにUEFAカップ出場権を獲得している。同シーズンは何かと波乱含みの結果が目立ち、例えばマンチェスター・ユナイテッドは新監督デイヴ・セクストン麾下、10位に低迷。また、FAカップを制覇したのは、やっとのことで降格を免れたイプスウィッチ(こちらも同カップ初優勝。監督はボビー・ロブソン)だった。一方、ニューカッスル(13年ぶり)とウェスト・ハム(20年ぶり)、そして他ならぬレスターが降格に甘んじている。

▽ついでにもう少し同シーズンのトリヴィアを続けると、得点王は30ゴールを積み上げたエヴァートンのボブ・ラッチフォード。このとき27歳のラッチフォードは、戦後初めて一シーズン30得点に到達したご褒美に、新聞社から1万ポンドを贈呈されている。183センチの“平凡”な身長ながらヘディングに滅法強く、また当代随一といわれたショートダッシュの速さを武器に得点を量産した。イメージはちょうど、現代のティム・ケイヒルのようなプレーヤーだったかもしれない。1974年から7シーズン在籍したエヴァートンでの記録は236試合106得点。その間、6シーズン連続でチーム得点王に輝いているほどに、同世代きっての完成されたセンターフォワードだった。この77-78シーズンにエヴァートンが披露した決定力には凄まじいものがあり、ホームで2度、6-0の圧勝劇を演じた他(対・コヴェントリー、チェルシー)、アウェイでもレスターとQPRを相手にともに5-1の大勝をものにしている。それでも3位に終わったのは総得点76の一方で「総失点45」が響いたゆえか。ちなみに、優勝したフォレストの記録は総失点わずか「24」(42試合)。

▽そこで、昨シーズンのレスターと比較してみると―――総得点68(フォレストは69)、総失点36(同24)、そして何よりも両者のシーズン通しての敗戦が揃ってたったの3試合。確か、昨シーズン半ば頃(2015年歳末)、ミラクル・レスターの快進撃がいっこうに途切れそうにない状況に鑑みて、本コラムで「フォレストの快挙」を取り上げた記憶があるが、なんと者の見事に“シンクロ”した結果を迎えたわけだ。ところで、フォレストは翌シーズンもディフェンディング・チャンピオンとしてチャンピオンズカップに出場、連覇を成し遂げているが、国内リーグでも準優勝した。その記録は前年同様「アウェイのみの敗戦3」と「総得点61・総失点26」。それでも2位に甘んじたのは、雪辱優勝したリヴァプールが、なんと「総得点85・総失点16」という驚異的な記録を残したため。なお、3位に入ったのはウェスト・ブロム、エヴァートンが4位。アーセナル、ユナイテッドはそれぞれ7位、9位で、マンチェスター・シティーは実に15位まで転落している。そして「総得点44・総失点92、および敗戦27試合」の最下位で降格したのは、他ならぬチェルシーだった。

▽気が付けば“昔話”に熱が入りすぎてしまったようだが、本稿のテーマはもちろん「レスターのこれから」。もしも、かつてのフォレストとの「ミラクル・シンクロ」を“夢見てしかるべき”ならば、現在負けが込んでしまっているプレミアで今後モウレツな反攻が始まると同時に、昨日無敗の3連勝を決めてグループリーグ突破へ王手をかけたチャンピオンズでのさらなる進撃を期待していいことになるのだが・・・・。カンテの抜けた穴は何とかアマーティとキングでカバーしつつ、新戦力のスリマーニも(やや下降線気味ながら)そこそこやってくれている。ヴァーディーの不発が気になるものの、それはマークがきつくなったゆえ。おそらくここまでの最大の“誤算”は、ディフェンスの二枚腰が利かなくなっているからか。それにまた、要のキーマン、マーレズにも二人、三人がかりの接近包囲網が目立つ。総じて言えば、敵方の工夫が現状では奏功、つまり、レスター得意の高速カウンターを封じる作戦に、今のところはまだ上手く対処しきれていないと言うべきだろう。

▽監督ラニエリは「理解に苦しんで」いるらしい。グループの面子は比較的「楽」だとはいえ、チャンピオンズで見せてきているスキのあまりない戦いぶりが、なにゆえプレミアで出来ていないのか。つまり、ラニエリの眼には問題の核心が「メンタリティー」にあると映っている。ある現地識者は、キング・パワー・スタジアムのコンパクトさが、ヨーロッパのチームを居心地悪くさせている一方、国内組はそれに慣れてきたという一面もあると分析しているが・・・・。おそらくは、プレーヤーもファンも、初参戦のチャンピオンズに対するフレッシュな期待感と、今までになく目の敵にしてかかってくるプレミア各チームのプレッシャーとのギャップに戸惑っているようにも思える。GKシュマイケルはこのコペンハーゲン戦前、もどかしい足踏み打開の緊急ミーティングを持つと述べていた。ひょっとしたら、この勝利が分水嶺になるかもしれない。あのミラクル・レスターがこのまま尻すぼみでは面白くない。願わくば、フォレストの「再現」を旗印に今ひとたびのミラクルとプライドの証を。ラニエリも言っている。「プライオリティーはあくまでプレミアだ」
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

2016年10月19日(水)13:20

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