★【東本貢司のFCUK!】居心地の悪さにめげるべからず

Getty Images
▽虫の知らせを感じていた。負ければそれまでのカップ戦にはありがちとはいえ、水曜日のEFLカップ4回戦・3試合のカードを見れば、不穏な予感は否めなかった。

記事全文

▽虫の知らせを感じていた。負ければそれまでのカップ戦にはありがちとはいえ、水曜日のEFLカップ4回戦・3試合のカードを見れば、不穏な予感は否めなかった。はたしてそれは、2012年ロンドン五輪のメインスタジアムで現実のものとなった。終盤、ウェスト・ハムの勝利濃厚となった頃、ビジターサポーター席との境で騒動が発生。きっかけは定かでない。現地の目撃者談によると、ペットボトルらしきものが飛んだのはハマーズサポーター側だったという。直前に激しい口論なりがあったのだろう。そのうち、引きはがされた白いシートが4つ、5つ宙を舞い、スタンド内の係員数名が慌ただしく現場に殺到、もみ合いはさらにエスカレートした。無論、ゲームはまだ続いている。アザールのシュートがポストを叩き、交代出場のディエゴ・コスタも惜しいチャンスを逃す。状況を見ていない身では細かな時系列の流れを把握できないが、おそらくスタンド内の騒ぎが収まってまもないインジュリータイム、ケイヒルが遅まきながらのゴールを押し込んだようだ。

▽2-1。見どころの多かったロンドン・ダービーは、ウェスト・ハムの快勝で幕を閉じた。もし、チェルシーの敗因を後付けするなら、先日マンチェスター・ユナイテッドをこてんぱんに葬ったメンバーから7名を外した“準一軍”で臨んだことになってしまうだろう。そして、その一番の矢面に立たされるのは、故障から戻ってきたジョン・テリーということになる。実際、ハマーズ、クヤーテの先制ゴールはテリーの緩慢な対応から生まれている。後半開始まもないフェルナンデスの追加点も、テリーの両足の間を測ったようにすり抜けていった。アントニオ・コンテは50分過ぎから順ぐりに、ディエゴ・コスタ、アザール、ペドロを投入、流れは一気にビジターサイドに傾くも、ゴールには届かない。ある意味ではプラン通りだったのだろう。そして、ユナイテッドに完勝して乗っている今のブルーズなら、残り30分あれば悪くともイーヴンに持ち込み、延長にもつれ込んでもそのときこそ消耗の少ない3人のエース、その存在がものをいう。だが、目論見は外れた。ビリッチには、自身もプレミアでプレーした経験から荒れ模様の展開を読む一日の長があったか。

▽ロンドンは異邦人にとってやはり最も過ごしやすい街のようだ。ビリッチはその恩恵を生かし、やってきて間もない初陣コンテにはまだこれからということなのかもしれない。なぜなら、二度の機会にロンドンを根城にし、現在も家族が居を構えるモウリーニョにとって、マンチェスターはまだ馴染めないようだからだ。単身赴任のホテル住まい、記者やパパラッツィがうるさくつきまとうため、ふらり外食もままならない。「居心地がいいとは決して言えない」とジョゼ君。そして迎えた“番外(=リーグカップ)”マンチェスター・ダービー、宿敵グァルディオラはまるでこれみよがしのメンバー落ちで、モウリーニョの苛立ちを逆撫でするかのよう。仮にも舞台はオールド・トラッフォード。ここで敗れてタイトルの目当てを一つ失えば、ますます「居心地」は悪くなる。果たして、運はなんとかモウリーニョに味方した。イブラヒモヴィッチに依然冴えが戻らず、ポグバもほんの時折ハッと思わせるだけ・・・・“渦中”のルーニーとムヒタリアンはベンチにすらいなかった。マタの切れ味に救われたとはいえ、ミスターMの居心地の悪さはまだしばらく続きそうだ。

▽あゝ、それよりももっと心配なのはサンダランド。その“孤軍奮闘”の将、デイヴィッド・モイーズだ。遠路はるばる乗り込んだ南岸のサウサンプトンにて、主(あるじ)クロード・ピュエルは、3日前にマンチェスター・シティーと引き分けたチームから7人をすげ替え、それどころかアカデミー卒業生を6名も抜擢して、悩めるモイーズを挑発?! それでもまったく突破口を開けないブラックキャッツのもどかしさに、元ユナイテッド監督もさすがに業を煮やしたか、ゲーム終盤、アニチェベがボックス内で倒された一件に激高、レフェリーから退場宣告を受けてしまった。居心地の悪さどころの話ではない。ふと、考えてしまう。エヴァートンをチャンピオンズ参戦にまで引き上げた頃のモイーズには、時のチェルシーから触手が伸び、あるいはヴェンゲルのクビが叫ばれていた中のアーセナルも関心を持っていたと言われたものだ。エヴァトニアンにしてみれば言語道断だったが、もし仮に「モイーズ・チェルシー監督」が実現していたら、その後どうなっていただろうか、と。

▽短絡的に想像してみると、多分、モウリーニョのユナイテッド監督就任はずっと早く決まっていただろう。つまり、ジョゼ君の第二次チェルシー政権はなかったことになり、ファン・ハールの名前が挙がることもなかった算段になる。モイーズがスタンフォード・ブリッジで成功をものにしていたかどうかは、無論、わからないが、少なくともサー・アレックスの後ほどのプレッシャーはなかったはずだから、さすがに一年足らずで追われるというような事態には及ばなかったろう。例の女性トレーナー事件もきっとなかった。「たられば」を並べればキリがないとはいえ、つくずく人間の運命とはわからないものだ。だからこそ思う。もしもこの先、サンダランドがモイーズを見限ってしまう(もしくは、彼自身が身を引く)ようなことがあるようなら、と。ここはじっと我慢の子、せめて来たる1月の補強に希望をつないで「名将モイーズ」の旗を今一度たなびかせる夢を描いてほしいと切に願う。そもそも一年程度で「万年残留争い」のチームが劇的に変わるものではないのだから。それは、オールド・トラッフォードの誰かさんについてもまったく同じである。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

2016年10月27日(木)12:07

mixiチェック
LINEで送る
【関連ニュース】
【東本貢司のFCUK!】新版・カンプノウの奇跡
【東本貢司のFCUK!】ピュエルとサッリ、去り際の“顔”
【東本貢司のFCUK!】復活の記憶と「ウーラ」の誓い
【東本貢司のFCUK!】チャンピオンズこそ伏兵に期待
【東本貢司のFCUK!】エヴァートンから始まるドラマ
戻る
(C) SEESAW GAME, Inc.