★【原ゆみこのマドリッド】先はまだ長いけど…

▽「着たがる人が果たしているのやら」そんな風に私が頭を振っていたのは月曜日。片側が赤白ストライプ、もう一方に生ハム模様がプリントされた、けったいな記念ユニフォームをTVのニュースで見た時のことでした。

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▽「着たがる人が果たしているのやら」そんな風に私が頭を振っていたのは月曜日。片側が赤白ストライプ、もう一方に生ハム模様がプリントされた、けったいな記念ユニフォームをTVのニュースで見た時のことでした。いやあ、CDギフエロ(2部)Bの第2ユニが全面生ハム模様であることは先日、コパ・デル・レイのベスト32組み合わせで相手がアトレティコに決まった時、スペイン全土の知るところとなったんですけどね。

▽水曜日の1stレグは狭いホームの市営スタジアムではなく、サラマンカのエルマンティコを借りて開催、40~60ユーロ(約5000~1万2000円)の入場券を買って見に来てくれたファンには、生ハムのボカディージョ(スペイン風バゲットサンド)をもれなく贈呈なんて辺りはまだ良かったんですが、こんな調子じゃ、当日のスタジアム周辺は生ハム切り売りスタンドが林立するのでは? まあ実際、ギフエロのあるサラマンカ州は生ハムの名産地で、たまに私も奮発して、マドリッドにある専門販売店で買って食べてみると確かにおいしいんですけどね。それでも、いくら下位カテゴリーチームには突破の可能性がほとんどない対戦とはいえ、そんな目の回るようなユニフォームで出て来られた日には、アトレティコの選手たちもマジメに試合に取り組めないんじゃないかと心配になったりするんですが…。

▽え、今はそれよりリーガの現状の方が気になるって? そうですね、この悪天候に祟られた週末ではちょっと順位に変化があって…。もちろん土曜日にスポルティング・デ・ヒホンをサンティアゴ・ベルナベウに迎えた首位のレアル・マドリーは勝ちましたよ。ただ、その日のユニフォームの前面にスポンサー名や紋章がほとんど見えなかったのは、環境保護をアピールするため、海から回収されたプラスチックボトルをリサイクルした素材で作った特製品だったせいで、試合中にずっと雨が降っていたせいではなく、元々印字が薄かっただけなんですけどね。

▽4分には早々にセルヒオ・アルバレスがルーカス・バルケスをエリア内で倒して、マドリーはPKをゲット。クリスチアーノ・ロナウドがそれを決めて先制した上、19分にも左SBとして先発したナチョのクロスをロナウドがヘッドで叩き込み、ほとんど勝負がついてしまったせいもあるんでしょうか。それからの彼らは「Bajamos la intensidad por muchas cosas/バハモス・ラ・インテンシダッド・ポル・ムーチャス・コーサス(ウチはイロイロな理由でプレーの強度を落としてしまった)」(ペペ)という状態に。

▽おかげで39分には、開始すぐにビッグチャンスを外していたカルモナが今度は見事なワンタッチシュートでゴールを挙げ、スポルティングが1点差に迫ったんですが、特にマドリーには焦りを感じた様子もなし。75分が近付くと、ジダン監督はイエローカードあと1枚で累積警告の危険があったセルヒオ・ラモスをマルセロに代え、次節に迫ったクラシコ(伝統の一戦、バルサvsマドリー戦のこと)対策を講じる余裕もあったんですが、思いがけないピンチが訪れたのは76分のことでした。ボールを持ったビクトル・ロドリゲスがCBに移ったナチョにエリア内でファールを受け、ペナルティを取られてしまったから、さあ大変!

▽でも大丈夫だったんですよ。というのも、今季、スポルティングでPK2本を成功させていたチョップが、やはり注目の大舞台ということで上がってしまったんですかね。当人は蹴る前、右手を首筋に当てて、自分が平静かどうか鼓動を確かめたところ、落ち着いていたと言っていましたが、ボールの方はゴール枠を大きく逸れてスタンドへ。おかげで結局、最後までスポルティングは追いつけなかったんですが、こんな絶好の同点チャンスをムダにした割に、アベラルド監督は「a nivel de juego y de autoestima nos da muchisimo/ア・ニベル・デ・フエゴ・イ・デ・アウトエスティマ・ノス・ダ・ムチシモ(レベルの高いプレーと自尊心を大いに与えてくれた)」と満足していたよう。

▽まあ、下位チームの場合、このスタジアムではgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)されて終わることも多々ありますからね。それを思えば、2-1の負けなら恩の字といったところなんでしょうけど、ジダン監督の方は「Podemos estar contentos pero solo de los tres puntos/ポデモス・エスタル・コンテントス・ペロ・ソロ・デ・ロス・トレス・プントス(満足できるが、それは勝ち点3を取ったことについてだけ)」と試合後、不満を口にすることに。でもねえ、折しも先週CLスポルティングCP戦でベイルが足首を痛め、2、3カ月の戦線離脱になってしまったこともありますし、モラタも負傷中。まだ復帰して数試合のベンゼマも本調子ではないとなれば、ロナウドが順調にゴールを挙げ続けてくれているだけでも有難いかと。

▽おかげでアンチェロッティ監督(現バイエルン)の記録に並ぶ公式戦31試合無敗も達成できましたし、後続との差を保ってリーガ首位を維持。土曜日のクラシコで負けてもその立場が揺らぐことはないとなれば、それ以上、贅沢を言ったらバチが当たるってもんですよ。ちなみに彼らも今週はクルトゥラル・レオネサ(2部B)とのコパがあるんですが、クラブW杯が12月中旬にあるため、他のチームと違って、こちらはもう2ndレグ。しかもアウェイの1stレグで1-7と大勝しているので、水曜日午後7時(日本時間翌午前3時)からのサンティアゴ・ベルナベウでは、スポルティング戦では出番のなかった、ようやく腓骨骨折が完治したカゼミロなど、ジダン監督が試したい選手たちがプレーする予定。終盤はどこか辛そうだったロナウドを始め、主力をクラシコに向けて温存できるのも、ファンにとってはホッとできますよね。

▽そして続く時間帯ではマドリッドの新弟分、レガネスがエスパニョールに3-0と完敗してしまったんですが、彼らにとって、それより深刻なのはその試合で正GKのセランテスが負傷。しかも前節、2得点したオサスナ戦で今季絶望となったロベル・イバニェス同様、ヒザの靭帯を断裂となれば、もう泣くに泣けないかと。どちらも冬の移籍市場が開く前にリーガの許可を得て、代替選手を探す予定ですが、それ以外にも現在、シマノフスキとディエゴ・リコもヒザを痛めて出場できない状態では、もうこの火曜日のコパ、バレンシア戦なんて、ただの重荷でしかないのでは? 幸い、まだ降格圏とは勝ち点4差があるので、とりあえず、何とかクリスマスのparon(パロン/休止期間)まで頑張って、年明けに運気が変わるのを待つしかないのかもしれません。

▽一方、日が変わって、日曜日にオサスナ戦に挑んだアトレティコはどうだったかというと。いやあ、それがマドリッドは引き続き雨模様だったんですが、パンプローナ(スペイン北西部、牛追い祭りで有名な町)は晴れていたんですよ。だからという訳ではないでしょうが、前節のマドリーダービーでは完敗したものの、CLではPSVに快勝して、自信を回復した彼らは軽快にスタート。おかげで開始すぐにはガメイロが先制点を挙げるチャンスを掴んだんですが、不可思議にも的を外してしまうことに。いえ、それどころか、13分にはヒメネスがオリオル・リエラをエリア内で突き飛ばし、PKを宣告されてしまったから、焦ったの何のって。

▽これではダービーでロナウドにペナルティを犯したサビッチと先発を交代させた意味もありませんが、嬉しいことにこの日はオブラクが冴えていてくれました。ええ、ロベルト・トーレスのPKを弾き、後でシメオネ監督も「El penal fue determinante/エル・ペナウ・フエ・デテルミナンテ(ペナルティが決定的だった)」と感謝していたんですが、誰ですか? 彼を全然、PKを止められないGKだなんて言っていたのは。それは昨季のミラノでのCL決勝やPSVとのベスト16でのPK戦の印象が強いだけで、実は試合中のPKなら8本中4本、50%の阻止率の持ち主。その止めたうちの3本がヒメネスのペナルティというのは奇妙な偶然ですが、そんなことも意外とサビッチのスタメン復帰には障害になるかもしれませんね。

▽まあ、そんなことはともかく、その後はコレアも敵GKとの1対1を失敗していたものの、何とアトレティコはほんの2分間程で試合を決めてしまったんですよ。まずは35分、もう長いこと、得点に結びつけていなかったコケのCKをゴディンがヘッドで決めて先制したかと思えば、大して間を置かずにコレアの浮き球パスに抜け出したガメイロが今度はシュートをネットに収めてくれたから、ホッとしたの何のって。おかげで私も後半はゆったりした気分で見ることができたんですが、残り1分にはコレアと途中交代したカラスコも敵のスローインからボールを奪い、3点目を挙げてくれたとなれば、これぞまさに文句のつけようのない完勝?

▽ええ、この試合前にはシメオネ監督も「La Liga, para los clubes, para los hinchas, es todo, la tabla se ve a dario/ラ・リーガ、パラ・ロス・クルブス、パラ・ロス・インチャス、エス・トードー、ラ・タブラ・セ・ベ・ア・ディアリオ(クラブにもファンにもリーガは全て、順位表を毎日見るんだから)」と言っていましたけどね。その日はビジャレアルがアラベスに2-0と不覚を取り、遅い試合でもバルサがここ7年間の習慣を忠実に守って、アノエタ(レアル・ソシエダのホーム)で白星を挙げられず。1-1の引き分けという結果だったため、6位だったアトレティコが4位まで上がることができたのは、とても大きな収穫だったかと。

▽ただ、これで2、3位のバルサ、セビージャとは勝ち点3差になったとはいえ、首位のマドリーとは相変わらず9差がついているのは如何ともしがたいんですが、次には上位同士で潰し合うクラシコも控えていますからね。当面のアトレティコの課題は水曜日午後9時(日本時間翌午前4時)キックオフのギフエロ戦。オサスナ戦をケガで欠場したフィリペ・ルイスとフェルナンド・トーレスはまだ戻って来ませんが、おそらくシメオネ監督もGKモヤを始め、ガイタンやトマス、ブルサリコら、普段あまりプレーしていない選手を投入してきそうですね。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

2016年11月29日(火)13:01

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