★【東本貢司のFCUK!】継続とその“理解”は力なり

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▽EFLカップ準々決勝4試合の結果が出た。勝ち上がったのはハル・シティー、リヴァプール、サウサンプトン、マンチェスター・ユナイテッド。

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▽EFLカップ準々決勝4試合の結果が出た。勝ち上がったのはハル・シティー、リヴァプール、サウサンプトン、マンチェスター・ユナイテッド。3チームはホームで勝利をものにしたが、サウサンプトンの“快勝劇”はエミレイツで演じられた。つまり、アーセナルだけがホームサポーターの失意を呼んだことになる。このセインツ戦、アーセン・ヴェンゲルはほぼ控えメンバーで固めたイレヴンを送り出して「負けるべくして」負けた。ちなみに、ユナイテッドはほぼベストの布陣で、チャルシーを下したウェスト・ハムを一蹴している。さて、ヴェンゲルはどこかでこのEFLカップを重荷に感じ、軽視していたのだろうか。ざっと調べてみても、これについての彼からのコメントは見当たらない。リヴァプールのユルゲン・クロップが「このカップ戦は非常に重要」と言い切っているのは、彼にとってのイングランド・初タイトルがかかっているからだろう。が、それにしても・・・・。

▽かつてのイングランド代表、クリス・ワドルは、この準々決勝が始まる前から、今シーズンから「EFL」を冠することになったリーグカップの“惨状”について「ファンにとっての詐欺に等しい」と断じていた。一例をあげると、リヴァプール-スパーズ戦ではそれぞれ(直前のリーグ戦からのメンバー変更が)11名と10名に及んだ。ある集計によると、プレミア10チームの“変更総計”は71名だったという(準々決勝以前)。ある程度のアレンジ程度なら無論、今に始まったことではない。特に初期のラウンドでは下位ディヴィジョンを相手にすることも多く、トップフライト(1部=プレミア)の監督が控えないしは若手の実戦経験の場とするのはほぼ常識だ。しかし、プレミア上位同士のリヴァプール-スパーズ戦や、準決勝進出がかかった試合でのアーセナルの「ほぼ総入れ替え布陣」は、さすがに行き過ぎではなかろうか。「ファンに対する詐欺」の“真意”について、ワドルは少なくとも事前にスターティングイレヴンの発表をしておくべきだと提言している。

▽つまり「もし、贔屓のチームが“二軍以下”のプレーイングスタッフで臨むことがわかっていれば、チケットを買うべきか否かを選択できる。特に、遠路はるばるはせ参じることになるビジターサポーターには、その選択肢を与えてしかるべきではないのか」というわけだ。しかし・・・・。以前、Jリーグがナビスコカップでメンバーを落とすことに規制をかけた事例について、筆者はひどく違和感をもったと述べたことがある。誰と誰を試合に出すかの権限はあくまでも監督にある。例えば、そのナビスコカップ戦直後のリーグ戦を絶対落としたくない場合、ある程度は主力を温存するのは理に適っている。成績が芳しくなければ、真っ先に“被害”を受けるのは監督だ。どこに力を入れ、どこで抜くかをコントロールするのも、監督の手腕の一つだと考えられる。マネージするからマネージャーというのであって、その時点での(特にファンが見なす)ベストメンバーをただ送り出すだけなら誰でもできる。監督は形だけの存在になってしまい、ましてやライセンスなど何の意味もなくなってしまう。何かボタンの掛け違えのような違和感を感じるのは筆者だけか?

▽つまり、ワドルはそのことを百も承知の上で「スタメンの事前発表」を提言しているのだろう。物見遊山やデートイベントで紛れ込んだ観客ならいざ知らず、クラブのサポーターたるもの、当の試合にかける監督の計算に気が付かないはずがない。なるほど、ホームのファンに期待の新人たちをお目見えさせる意図なんだな、チャンピオンズもFAカップもあることだし、何よりも今シーズンはプレミアのタイトル奪取も有望、となれば、アーセナルのコアなサポーターは納得する。それで負けてしまったら? もちろん悔しい、ベンチにさえ主力をほとんど置かなかった起用采配はやはりどうだったのか、とがっくり肩を落とし、多分しばらくはヴェンゲルに対して恨めしい思いを引きずってしまうだろう。そのとき、呼応するコメントが、このほど正式にイングランド代表監督に指名されたばかりのギャレス・サウスゲイトからもたらされている。「長い目でチームの成長と充実を促したい。目先の一試合で判断するのは無しに願いたい」。一過性の性格を持つ代表チームですらそうだとしたら、クラブチームはもっともっと「長い目」で判断されるべきだろう。

▽そう、予想通り、いや、予定調和のごとく、スリーライオンズの新しい指揮官は、サウスゲイトの(アンダーエイジ代表からの)昇格就任で決着した。不協和音は今のところ一切聞こえてこない。メディア周辺で噂に上っていたユルゲン・クリンスマンは、奇しくもほんの少し前、アメリカ代表監督の座を追われていたが、その前から「ク」の字すらささやかれることはなくなっていた。当然だ。名のある大物外国人監督を招聘するブームは依然として、特に“第三世界”では健在だが、母国たるもの、もはや付け焼き刃のカンフル剤効果に期待しても仕方ないだろう。なぜなら、不祥事で身を引かざるをえなくなったとはいえ、サム・アラダイスへの期待は、外部から察するよりもはるかに大きかったからである。ならば、そこでまた“逆戻り”ではそれこそボタンの掛け違えになる。サウスゲイトの契約期間は4年。2020年のユーロまで彼に預けるということだ。成績次第だが、筆者はそれでも短いと思う。使い古された言葉だが継続は力なり。そのことは、サー・アレックスはもちろん、今や世界有数の長期政権を敷くヴェンゲルがはっきりと証明している。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

2016年12月2日(金)10:00

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