★【東本貢司のFCUK!】ミラクルの看板、いまだ健在

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▽かくてレスターのヨーロピアン・アドヴェンチャーはひとまず終止符が打たれた。とはいえ、天晴の賛辞を贈っても罰は当たるまい。

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▽かくてレスターのヨーロピアン・アドヴェンチャーはひとまず終止符が打たれた。とはいえ、天晴の賛辞を贈っても罰は当たるまい。そもそも、ファーストレッグのPK(グリーズマン)は誤審だった。ホームでのリターンマッチでも先制ゴールを奪われ、もはや希望の火もふっつりと消えたも同然の中、逆襲の同点弾をかっさらい、最後の1分まであきらめず攻め続けた。今大会、ホームゲームをただの一度も落とさずに乗り切ってきた事実だけをとっても、ファイナルホイッスル後、キング・パワーの観衆が万雷の拍手と総スタンディングオヴェーションの喝采を贈ったのは当然だった。何よりも、敵将ディエゴ・シメオネが(あの、シメオネが!)、レスターイレヴンの一人ひとりを健闘をたたえる熱っぽいハグで労ったことがすべてを物語っている。おそらく、このアトレティコ以下、レスターと戦ったヨーロッパのチームの全メンバーも同じ思いに違いない。自分たちは確かにイングランドのチャンピオンを相手にした、あのミラクルは決してフロックではなかったと。

▽以前にも書いた。チャンピオン・レスターが(皮肉なことにラニエリ解任直前まで)すっかり勝てなくなった理由。「ミラクル」の大パレードを席捲させるにまかせてしまったビッグクラブの意地、二匹目のドジョウはさすがに甘くないぞと引き締めた気が落としどころを見つけられないまま道に迷ってしまった自縛の罠、レスターができたのなら我々だってと目の敵にしてかかってきた“同輩”のチームの気迫。それらが混然となって、彼らに立ち直りのきっかけすら許さなかったがため・・・・。言っておくが、今でもラニエリ解任は世紀の大失態だったと断じたい。しかし、何度でも繰り返すが、皮肉にも、その世紀の大失態が「自縛の罠」から抜け出す引き金になった。それも、ある意味ではミラクルだ。つまり、ミラクル・レスターの看板は健在、少々趣を変えて凛として誇り高く掲げられている。ホームのアトレティコ戦の観戦者なら覚えているはずだ。ゴール裏に広げられたどでかいバナーの中で爛々と敵を射すくめるキツネの両眼を。そして、クレイグ・シェイクスピアの「これは手始め、改めての挑戦を目指す。今はまずはプレミア残留確保」の意気を。

▽なんとなれば「敗れてもなお強し、その誇りは見紛うことなし」以上に、ファンをときめかせるものはない。「勝てばすべて良し」はその場限りの慰撫、感傷でしかなく、気が付けば明日への不安を掻き立てる要因にもなる。例えば「半分以下のパフォーマンス」(アーセン・ヴェンゲル)で、辛うじて降格ゾーンのミドゥルズブラを退けたアーセナルのファンは、まさにそのレスターとのゲームを目前にして今、戦々恐々としているかもしれない。無論、セヴィージャをうっちゃり、アトレティコを苦しめたレスターに完勝でもすれば、トップ4フィニッシュへの首の皮一枚が二枚に格上げされる期待の方を膨らませるべきなのだが、筆者の目にもやはり「不安」の二文字がちらついて消えそうにない。肝心の二枚看板、エジルとサンチェスについてである。直近のボロ戦でも、一つ前の完敗を喫したクリスタル・パレス戦でも、二人に絡む連携がどうもぎこちなく見えて仕方がないからだ。いや、その前の(スコア上は快勝の)ワトフォード戦ですら、スコアラー3名のゴール直後の表情は冴えなかった。それは単にパフォーマンスの内容だけのゆえなのだろうか?

▽彼らの胸の裡にも「不安」の種が芽を吹いているからではないのか、シーズン終了直後からの“見えない将来の闇”にとらわれてはいないか? ならば、不肖の身で恐縮至極ながら、あえて提案しよう。ムッシュー、もとい、ミスター・ヴェンゲル、もはや躊躇うことはない、今こそ契約延長更新に首を縦に振ろうではないか。それで“彼ら”にも一つの踏ん切りがつく。ファンの“もやもや”にもはや“忖度”することはない。たとえ不遜と謗られようが続投を宣言すべきではないのか。仮にその結果、オフに誰彼が移籍を申し入れようがかまわないではないか。それはそれで、大手を振って補強市場に乗り出す正当な口実にもなる。あるいは、むしろヴェンゲルの方から“粛清”を決行したっていい。「粛清」とは“役立たず”を追放することにあらず。クラブのため、当該プレーヤーの将来のための、つまりは前向きな「改善策」としてだ。今一度、自身の原点に立ち返って「改造」に着手する。それに首をかしげるガナーズファンなどいないはず。そう、例えば“心機一転”を画策中のルカクや、それこそ宙に浮いているルーニーに目を向けてもいいではないか。

▽可能不可能の問題ではない。すでに“できる”ことが証明されているプレーヤーに新たなチャンスを与え、ヴェンゲル・アーセナル流の術を施す。そこで、敢然と「ネオ・インヴィンシブルズの再現」を掲げ、意気に感じる勇者たちを、有名無名を問わず、呼び寄せるのだ。それでこそ不満をかこつファンも目を開く、わくわくする。そのうえで、いくつか具体的な提案をしよう。狙うべきは、まず古巣モナコの人呼んで「アンリの再来」キリアン・ムバッパ。ただし、モナコとの交渉において「一年間の“Uターン”ローン貸出し」を提示して相手にウンと言わせる。その一方で、即戦力として期待したい“隠れた逸材”ワトフォードでプレーするミラン所属のムバイェ・ニアンを獲る。まだ22歳、粗削りだが大化けする可能性を秘めていると見る。ヴェンゲルの薫陶を受けて鍛えられ自信をもてば、ひょっとすればこちらもアンリ並みの戦力にならないとも限らない。もう一人は(エヴァトニアンの端くれとして内心は辛いのだが)エヴァートンのシュネデルラン(現地プレミア解説陣は概ね「シュナイデリン」と発音)。このスタイリッシュで視野の広いフランス人なら必ずや「新・ミスターアーセナル」として攻守の軸となってくれるはず。いかが?

2017年4月20日(木)12:50

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