★【東本貢司のFCUK!】ドイツに「追いつけ追い越せ」?

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▽日本語で「司令塔」、英語なら「プレーメイカー」。この“肩書”に相当するプレーヤーが複数いる、それもポジションを問わず4人、5人もーーーこの4、5年、主にヨーロッパのクラブフットボールシーンを俯瞰してきて、これこそが現代フットボールの最も顕著な特徴ではないかと思っている。

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▽日本語で「司令塔」、英語なら「プレーメイカー」。この“肩書”に相当するプレーヤーが複数いる、それもポジションを問わず4人、5人もーーーこの4、5年、主にヨーロッパのクラブフットボールシーンを俯瞰してきて、これこそが現代フットボールの最も顕著な特徴ではないかと思っている。つまり、攻撃態勢に入る際などでほぼ決まってボールが集まる“起点プレーヤー”が、大げさに言えばフィールドのあちこちにいて敵に息つく暇を与えない。先ほど終了したコンフェデレーションカップ、チリ対ドイツを見届けて、そのことを改めて再確認する思いだ。それぞれ攻守の“性格的”スタイルは違うとしても、誰が、どこから、キラー効果満点の攻撃の起点を演じるのか、高見の視点(放送メインカメラの位置)からでも、予測がつきにくい。無論、ここではショート、ロング、いずれのパスワークに主体を置くなどという“悠長”な議論は通じない。文字通りの臨機応変。それを効率よく使い分けられなくてはもはや時代遅れの感も。それでこそ「チーム一体、一丸」が充当する。当然「体力、走力が落ちる落ちない」などの外野解説も時代遅れなのだ。

▽さすがは二期連続南米チャンピオンと世界チャンピオンーーーと形容するのは当たり前のようでいて、実は「二流、いや素人解説の象徴的文言」にすら聞こえてしまうのは、ドイツがこの大会にぶつけた陣容が「え?」と思うくらい「若い」から・・・・ではない。相手にサンチェスがいるのだから、エジルやメルテザッカーがいたら面白い(解説の際の話ネタにもなる)のに、というのもピント外れ。確かにヨアヒム・レーヴは明らかに「若返り、世代交代」を意識しているように見えるが、ゲームをじっくり追っていけば、いかにこの「若い」チームの組織力とコミュニケーションの習熟度が高いかがよくわかるはずだ。一つ気づいたこと。中盤の運動量の多さと目まぐるしいポジションチェンジ(これは“百戦錬磨”のチリも同じ)のせいで見極めにくいかもしれないが、ドイツは実に柔軟な「3バック」を敷いているように受け取れたのだがどうだろうか。思えば、このドイツに(インスピレーションの点で見劣りするとしても)通じるパフォーマンスで、結果はともかく善戦中のニュージーランドも3バックなのだが、ひょっとしてこれは静かなブームなのか?

▽ふと、今年、足並みがよれかけたシーズン半ば過ぎから3バックに切り替えて復調気運に乗ったアーセナルのことが頭をよぎる。それに確か、プレミアの半数近いチームでも同じ“傾向と対策”が見え隠れしていた。しかも、そこには従来の「中盤を厚くする」とかの数的理論を超えた何か(の新機軸)を感じる。物理的には、足の速い両サイドバック(→ウィングバック)の攻撃参加を生かし、アンカー(中盤の底のいわゆるホールディングプレーヤー)が3バックディフェンスの“前面の盾”を役割をより意識する、という筋になりそうだ。戦術理論的にはそんな辺りなのだろうが、いずれにせよ、より柔軟に幅広くどこからでも、という、攻守のオプション増幅効果が念頭にあるのだと思う。そうなると、快速両ウイングバックとポジションにとらわれないスキルを持つアンカーがいるといないとで違いが歴然としてくるだろう。その点で、現在のチリと“若返った”ドイツはなるほど、一日の長がありそうだ。裏を返せば、彼らに対抗するには「どこをどう」強化すべきかも見えてくる。かなり短絡的見方になるが、突出したタレントの豊富なアルゼンチンがもう一つ突き抜けられないのは、やはり個人技主体のチーム構成になっているからでは?

▽話を少々巻き戻す。これだけ“次世代型”ドイツが急速に完成に近づいているとしたとき、我らがイングランドの場合はどうなのか。折しも、U21ワールドカップで歴史的優勝を遂げ、同時期に行われていたU20トゥーロントーナメントでも優勝、さらに現在進行中のU21ユーロでラスト4(準決勝)進出しているからには、十分に対抗し得る? 以前にも述べたように、U21代表監督のギャレス・サウスゲイトを昇格させた辺りにも、FA(イングランド協会)の明らかなヴィジョンがうかがえることだし? あえて(贔屓目の)結論から言えば、少なくとも希望はある、いや、膨らむ。無論、がらりと入れ替えるのは無謀だろうし、詳細は後に譲るが欠点もまだ見える。が、チームの一体感、“ツーカー度”を重視するべきなら、二人や三人程度の“抜擢”ではおそらく逆効果。ドイツだって来夏の本番では当然、エジルやノイアー、ケディーラ辺りを外すはずもなかろう。ならイングランドも・・・・おや、存在が怪しくなってきたルーニーを除けば、すでに相当若返っているじゃないか。ケイン、アリ、ダイアー、スターリング、ラシュフォード、ストーンズそしてひょっとしたらピックフォード! これはしたり。どうやらドイツの先を行っている?

▽ところが、哀しいかな、さきほど目撃したドイツほどの底力はまだ感じられない、もしくは、証明されるまでに至っていない。なぜか。上にあげた中の数名を除いて、肝心のリーグで必ずしも定位置を確保していないからだ。言うまでもなく、U21世界王者のメンバーから繰り上げられる誰かがいたとしても、経験はもっと浅い。その点を、母国の識者はこぞって指摘し、不安視する。有力外国人に頼らず“彼ら”をもっと実戦に起用せよ、と叫んでみたところで、現実的に“聞く耳”はまだまだか細い。スパーズの台頭が少しは刺激になった節もなくはないが、U21世代を確実なトップ戦力とみなす傾向が見えてきているのは、有力クラブではそのスパーズとエヴァートンくらい。皮肉なことに、ドイツの若手台頭を陰に陽に肌で感じてきているはずのユルゲン・クロップには、現時点ではまだ希望的観測ではあるが、リヴァプールに国産の若い血を吹き込もうとする“意気”のようなものを感じはするのだが・・・・。とどのつまりはサウスゲイトの決断次第。この際、ロシアW杯を「テスト」と割り切るくらいの冒険をしてみる価値はあるはずだ、2020年を照準に!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

2017年6月23日(金)10:14

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