★【原ゆみこのマドリッド】ボールを追うばかりなのは辛い…

▽「忘れちゃうこともあるんだ」そんな風に私が笑いを噛み殺していたのは月曜日、CLグループリーグのレアル・マドリー戦を控え、サンティアゴ・ベルナベウで記者会見をしたポチェッティーノ監督が「パフォーマンスって何だっけ」と横のアシスタントコーチに訊いているのを目撃した時のことでした。いやあ、当人がアルゼンチン人とあって、質疑応答もどちらかというとスペイン語の方が多かったんですけどね。

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▽「忘れちゃうこともあるんだ」そんな風に私が笑いを噛み殺していたのは月曜日、CLグループリーグのレアル・マドリー戦を控え、サンティアゴ・ベルナベウで記者会見をしたポチェッティーノ監督が「パフォーマンスって何だっけ」と横のアシスタントコーチに訊いているのを目撃した時のことでした。いやあ、当人がアルゼンチン人とあって、質疑応答もどちらかというとスペイン語の方が多かったんですけどね。実際、英語とスペイン語には語尾だけ変えればいい似た単語も多いんですが、rendimiento(レンディミエントー/パフォーマンス)はちょっと連想が不可能。うーん、サウサンプトンにもトッテナムにも母国語で会話できる選手は結構いたはずですが、さすがイギリス暮らしが4年も続くと、咄嗟に出てこないこともある?

▽まあ、些細なことはともかく、その日は昨今、プレミアリーグを席巻しているハリー・ケインを一目見たくて、トッテナムのスタジアム練習を見学に行った私でしたが、ホームゲーム初戦のアポエルとは違い、ピッチでは他にもGKロリスを始め、ソン・フンミンやフェルナンド・ジョレンテといった私でも見分けられる選手がいた上、フィジカルコーチがエクササイズの指示を英語で出しているだけで何か本格的なサッカーをやっているように思えるのは私だけ? CLの割に意外とTVカメラの数が少なく、まだチケットも残っていると聞くため、この火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からの対戦はそれ程、注目カードではないのかもしれませんが、1分け1敗で次は敗退の危機にも陥りかねないどこぞのチームとは違って、トッテナムもマドリーも2連勝中と、グループ首位の高みをガチンコで争う大事な試合ですからね。

▽先週末のリーガ戦ではGKケイロル・ナバスを始め、ヴァランやモドリッチ、カゼミロ、イスコらをローテーションしたジダン監督も今回は「La primera final por el grupo es manana/ラ・プリメーラ・フィナル・ポル・エル・グルッポ・エス・マニャーナ(グループリーグ最初の決勝)」と言っていたため、ファンは大喜びするものの、心臓に悪いお家芸、土壇場での決勝ゴールなどに頼らなくても済むよう、ベスト中のベストメンバーで挑むはずですが、さて。折しも今季のリーガで初ゴールを挙げたばかりのクリスティアーノ・ロナウドもCLでは4得点と順調なだけに、現在5得点でランキングトップを走るケインとのストライカー対決は絶対、見逃せないところでしょう。

▽そうそう、その土曜のリーガ戦はヘタフェとのミニダービーだったマドリーなんですが、マドリッドの弟分はバルサ戦同様、ボールがあまり速く走りすぎないよう、少々長めにコリセウム・アルフォンソ・ペレスの芝を剪定。それが却って裏目に出てしまったんでしょうか、アルバロ・ヒメネスの早期負傷交代のアクシデントにも関わらず、何とか相手を無得点に抑えていた前半38分、チャンスを与えてしまったのはCBのカラでした。ええ、自陣エリア前のFKを蹴る時に滑り、ボールが敵へ。そこから切り込んできたベンゼマにタックルを挑むもかわされ、最後はシュートを決められてしまったとなれば、後で当人が「Algo no estamos haciendo bien/アルゴ・ノー・エスタモス・アシエンドー・ビエン(ウチは何か上手くやれていない)。最高責任者の監督から用具係までね」と、失点の原因が選手たち以外にもあることを強調していたのも仕方ない?

▽ただこの1点は後半、11分にファイルが出したラストパスをホルヘ・モリーナがゴール前から流し込み、いえ、リプレー映像だと、ナチョかマルコス・ジョレンテのオウンゴールにも見えなくないんですけどね。モリーナも「Por poner, que me lo pongan a mi/ポル・ポネール、け・メ・ロ・ポンガン・ア・ミー(誰のゴールにするかだったら、ボクにしてくれたらいい)。最後かどうかはわからないけど、足を出して触ったのは確かだよ」と言っていましたし、せっかくローテーションで先発できた2人もミソはつけたくなかったか、得点者として名乗りは挙げず。これでスコアは1-1の同点となったんですが…ここでボルダラス監督が守りに入ってしまったのは残念だったかと。

▽もちろん手持ちの選手レベルに大きな差があるため、仕方ない面もあるんですけどね。後半途中からベテランボランチのセルヒオ・モラを入れるのは今季のヘタフェのお約束なんですが、この日は彼がベンチにいなかったため、初出場となるラセンをアマスに代えて20分に投入。対するジダン監督もなかなか勝ち越し点が入らなかったため、26分にスペイン代表イスラエル戦の2匹目のドジョウを狙ったか、スーパーサブのカードを切ります。それはイスコで、どうやらその日はプレーさせるつもりはなかったようなんですが、おかげでその直後、クロースからのFKをゴールすぐ前でvolea(ボレア/ボレーシュート)しながら、信じられないことに外してしまったロナウドも面目躍如できることに。

▽そう、後でボルダラス監督も「Teniamos problemas a nivel fisico/テニアモス・プロブレマス・ア・ニベル・フィシコ(ウチには体力的な問題があった)」と認めていたように、格上相手に必死に守った結果、明らかに終盤のヘアタフェは燃料切れに。そこでボランチのアランバッリをブルーノに代え、5人DF体制で逃げ切りを図ったんですが、40分、何とそれを嘲笑うかのようにイスコのパスが守備ラインをふわりと超え、抜け出したロナウドがシュート。これが決勝点となって、1-2で負けてしまうんですから、まさに勝負とは非情です。おまけに今季、あとちょっとのところの失点で勝ち点1を失ってしまうのはセビージャ、バルサ、デポルティボ戦に続き、この試合で4試合目となれば、ヘタフェの面々がショックを受けていたのもムリないかと。

▽うーん、丁度、中足骨のヒビを治す手術をした柴崎岳選手も日本に帰国していたため、先週は練習見学をサボッてしまった私でしたが、このチーム、もともとマドリーやアトレティコに比べ、1回のセッションが2時間前後と沢山、トレーニングはしているんですけどね。もしや試合後、「Isco juega asi porque le sale, es lo que lleva dentro/イスコ・フエガ・アシー・ポルケ・レ・サレ、セ・ロ・ケ・ジェバ・デントロ(イスコは自然にああいうプレーをする。自分の中にそれを持っているんだ)」とルーカス・バスケスも言っていたように、才能ある選手ばかりが集まったチームに対抗するには、もっともっと鍛えて、敵の何倍も走れる体力をつけないといけない?

▽ただどんなにフィジカル強化を熱心にしても人間、限界というのはあるもので、それを示してくれたのは同日、バルサを迎えたアトレティコ。間に2時間以上あったため、私も何とかマドリッド郊外南部のヘタフェから市内東北部のワンダ・メトロポリターノに駆けつけることができたんですが、いえ、シメオネ監督のチームが高い位置でプレスをかけ、グリースマンのシュートは2度共、GKテア・シュテーゲンに弾かれてしまったものの、20分には彼らにしては珍しく19回もパスを繋ぐことに成功。それだけでも僥倖だったのに、最後はサウルがエリア外から利き足でない右で放ったシュートが決まり、冗談のように先制できてしまった前半はまだ良かったんですけどね。

▽実際、カタルーニャ州独立問題にはまだ決着がついていないものの、スタンドにはスペイン国旗を掲げるかなりの数のファンがいたぐらいで当分、ピケへのpito(ピト/ブーイング)は各地のスタジアムで恒例行事となる気配が濃厚とはいえ、試合中に不穏な雰囲気はまったくなし。予想外のリードに場内も盛り上がったんですが、後半があれではねえ。とりわけバルサがイニエスタとセメドを下げ、デウロフェウとセルジ・ロベルトを入れて攻勢に入った15分以降はとにかく、いつ点を取られるかという恐怖と闘うだけになるとは一体、誰が予想できた?

▽それも「El plan era intentar aguantar y salir a la contra cuando dejasen espacios/エル・プラン・エラ・インテンタール・アグアンタル・イ・サリール・ア・ラ・コントラ・クアンドー・デハセン・エスパシオス(作戦は耐えて、スペースができたらカウンターに出ることだった)」という彼らが、「Cuando recuperabamos no conseguiamos hacer la salida limpia/クアンドー・レクペラバモス・ノー・コンセギアモス・アセール・ラ・サリーダ・リンピア(ボールを奪い返してもボールをスムーズに出せなかった)。すぐ取り戻されて、また攻められた」(サウール)のが悪いんですけどね。真夏のロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)での地獄のキャンプでしごかれて、弟分より持久力がついているはずのアトレティコだって、健脚自慢のコケも「El equipo ha hecho un gran desgaste fisico/エル・エキポ・ア・エッチョー・ウン・グラン・デスガステ・フィシコ(チームの体力消耗は凄かった)」と言っていたように、ずっとボールを追ってばかりでは疲れるんですよ。

▽そう、シメオネ監督もカラスコをトーマスに代え、守備固めに入ったんですが、ファンもあまりの劣勢ぶりに心を砕かれたか、応援の声も途絶えていた36分、セルジ・ロベルトのクロスをルイス・スアレスがファンフランの目の前でヘッド。こんな形で同点にされているなんて、もう体力の限界で頭が働かなかった故のポカとしか思えませんが、その後もピンチは到来します。ええ、ロスタイム終了間際など、エリアすぐ前でFKがバルサに与えられ、メッシがキッカーに立ったため、誰もが最悪の結末を予想したんですが…大丈夫、その日も再三のparadon(パラドン/スーパーセーブ)で失点を防いでくれたGKオブラクがストライクでキャッチしてくれて、試合は1-1の引き分けで終了。ほんの少しだけですが、弟分との差を示すことができたかと。

▽まあ、これまで全勝だったバルサから勝ち点2を奪ったという意味ではアトレティコを褒めてあげるべきなんでしょうけどね。どうにもこの土曜の2試合、サッカーはどんなに凡人が努力できる範囲で体力アップを図ったとて、やっぱり才能の閃きには敵わないんじゃないだろうかという疑問が再浮上してきたのも確か。シメオネ監督など、ゴールを挙げたサウルを「Sigue creciendo/シゲ・クレシエンドー(成長し続けている)。朝も合宿先のホテルでジムに行って夜の試合のために体調を整えるようになったしね」と評価していましたが、いえ、そういうのって普通にやるもので、今までやっていなかったら、そっちの方が問題では?

▽その辺の差がとりわけ、CLのチェルシー戦(1-2で負け)やこのバルサ戦で明らかになってしまったのは悲しいですが、いくら文句を言ったって、FIFA処分のせいでジエゴ・コスタもビトロ(現在ラス・パルマスにレンタル中)も1月までプレーできませんからね。とりあえず、これでお隣さんに順位を追い抜かれてしまったことは忘れて、月曜にはもう水曜のCL3節に備え、空路6時間のアゼルバイジャンに旅立って行った彼らには決勝トーナメント進出の可能性を残すため、とにかくカラバフに勝ってくれることを祈るばかり。うーん、このぐらいの相手には通常、楽勝のはずなんですが、今季はリーガで絶好調のバレンシアはともかく、ジローナ、レガネスにも引き分けているアトレティコだけにちょっと心配ですよね。

▽え、レガネスが10月の代表戦週間前、スコアレスドローで兄貴分から勝ち点1をもぎ取ったのは決してフロックでなかったことは日曜のマラガ戦で証明されたんじゃないかって?そうですね、相手は今季まだ勝ち点1しかない最下位でしたが、後半に入ってギアを上げたガリターノ監督のチームは11分にはFKからガブリエウが、32分にもカウンターから1対1を制したシマノフスキが決めて、0-2で勝利。おかげでまた6位まで上がって、とうとうオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の担当レポーターから「Eurolega/エウロレガ」の声まで聞こえてくることに。

▽確かにこのままの順位で終われば、来季はヨーロッパリーグ出場となりますし、ヘタフェも最盛期にはエウロヘタと呼ばれて欧州遠征を楽しんだものでしたが、ただしこの先の道は険し。何せ、今週末にアスレティックをブタルケに迎えた後、レガネスにはセビージャ、バレンシア、そしてバルサと次々と強敵が待ち構えていますからね。この難所を半分ぐらい引き分けで抑えられれば、まだ夢を見続けられるかと思いますが…その前に定員20名ぐらいしかないようなホームの記者席の少なさはどうにかならない?来季、せっかくヨーロッパの名門が訪ねてきてくれても応援に行けないんじゃ、私も困ってしまいますよ。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。


2017年10月17日(火)12:00

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