★【ロシアW杯大会総括】トレンドは堅守速攻へ? テクノロジー進化の一方で原点回帰の動きも…

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▽6月14日から7月15日までの約1カ月間に渡って開催されていたロシア・ワールドカップ(W杯)は、フランスの20年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。

◆傑出した個とソリッドな守備スタイルの融合
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▽今大会では連覇を目指したドイツがグループリーグ敗退、スペインとアルゼンチンがラウンド16で敗退するなど優勝候補が苦しんだ中、順当に力を発揮して優勝を成し遂げたのがフランスだった。

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▽6月14日から7月15日までの約1カ月間に渡って開催されていたロシア・ワールドカップ(W杯)は、フランスの20年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。

◆傑出した個とソリッドな守備スタイルの融合
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▽今大会では連覇を目指したドイツがグループリーグ敗退、スペインとアルゼンチンがラウンド16で敗退するなど優勝候補が苦しんだ中、順当に力を発揮して優勝を成し遂げたのがフランスだった。オーストラリア、ペルー、デンマークと同居したグループCを2勝1分けで首位通過したチームは、ラウンド16でアルゼンチンとの壮絶な打ち合いを4-3で制すると、準々決勝では大会屈指の堅守を誇るウルグアイ相手に2-0の完勝。ベルギーとの準決勝では白熱の攻防を繰り広げた中、セットプレーで得た先制点を持ち味の堅守で守り切って1-0の辛勝した。そして、クロアチアとの決勝ではセットプレーによる2ゴール、ポグバ、ムバッペの個人技による2ゴールによって4-2で勝利。最終的な戦績は6勝1分けの14得点6失点という、優勝に相応しいモノだった。

▽グリーズマンやムバッペ、カンテ、ヴァラン、ポグバとヨーロッパのメガクラブで活躍する傑出したタレントを擁するだけに圧倒的な戦いぶりが期待されたものの、今大会を通じてデシャン監督率いるチームは質実剛健な戦いぶりが目立った。サイドバックにセンターバックでもプレー可能な守備的なパヴァール、リュカを抜擢したほか、デンベレやトヴァン、フェキル、レマルら豊富なアタッカー陣を擁する中、左ウイングのレギュラーを務めたのは守備的なセントラルMFのマテュイディ。また、ペルーやデンマークなどの格下を含め今大会を通じてボールポゼッションで相手を下回る試合が多く、相手にボールを持たせて自陣に引き込み、ムバッペらのスピードや個人技を武器にカウンターで引っくり返すリアクションスタイルの戦い方を選択した。その戦い方の中、全試合で先制点を与えなかったソリッドな守備、0-0の状況の中でセットプレーや前線の個の力でゴールを奪い切る決定力など、自らの特長を最大限に生かし切る戦いぶりは見事だった。

◆テクノロジーが主役に
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▽今大会から導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が大会を通して大きな注目を集めることになった。昨年のコンフェデレーションズカップでは確認に要する時間など運用面で大きな問題を抱えていた中、昨季ブンデスリーガやセリエAでの導入を経て運用の部分ではだいぶスムーズになった。その一方で、今大会ではVAR導入の結果、PKによる得点が歴代最多の22ゴールも生まれることに。とりわけ、ボックス内でのハンドやセットプレー時のホールディングへの監視は厳しくなった印象だ。ただ、似たようなシチュエーションにおいて主審によって判断がまちまちで不公平感も否めない。もちろん、審判の見ていないところでの汚いプレーや審判を欺くシミュレーションの抑止という部分では一定の効果を発揮したはずだ。

◆守備組織の整備とスカウティング力の向上
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▽今大会を通じて目立ったのはロシアやデンマーク、スウェーデン、アイスランドといった中堅、弱小国の守備における組織力の高さだった。これまでもW杯では格上、格下と力の差が明確な中で格下のチームが人海戦術で守るケースが多かったものの、今大会では一線級のストライカーやアタッカーを擁する格上の国に対して、比較的エラーが少なく組織立った守備で守り切る場面が目立った。とりわけ、メッシやネイマールといったドリブラーやケインやレヴァンドフスキ、ジルーといった基準点型のストライカーが流れの中で抑え込まれるシーンが目立ち、DF個々のアスリート能力の高さや味方同士のカバーリングの関係性など質の高さを感じた。そのため、ボールを握って遅攻を試みるチームが崩し切る形はほとんどなく、アザールやムバッペ、ペリシッチ、ドグラス・コスタなど個で局面を打開したタレントも活躍の場はカウンター時やスペースのある状況にとどまった印象だ。

▽加えて、今大会からベンチにタブレット端末の持ち込みが解禁となるなど分析面においてもテクノロジーの恩恵を受ける形になった。とりわけ、戦術という大枠ではなくフィジカル能力や高さ、スピードというより単純な要素が試合に持ち込まれる場面が目立った。ここ最近のトレンドである長身FWのウイング起用という部分では、ブラジル戦でマルセロにルカクを当てたベルギーは、日本戦でもフェライニを長友のサイドに当てることで高さのミスマッチを作り出した。デンマークもラウンド16のクロアチア戦でユスフ・ポウルセンの高さを使ったロングボール戦術から流れを掴んでいたのが印象的だ。また、クラブチームと異なり、対戦相手の数の少なさと決勝トーナメントの組み分けも事前に決まっていた事情から各国の対戦相手への徹底的な分析が進んでおり、対戦相手に合わせてシステムやメンバーの使い分けを行うチームも多かった。

◆より堅守速攻に傾く。セットプレーの重要性高まる
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▽戦術的なトレンドが反映されやすいW杯だが、前回のブラジルW杯と同様に堅守速攻スタイルを採用するチームが目立った。ポゼッションとポジショナルプレーを軸とするスペイン、ドイツがアタッキングサードの攻略、被カウンター時のリスクマネジメントに苦しみ早い段階での敗退を強いられた一方、ロシア、スウェーデン、デンマーク、スイスといった堅守速攻スタイルのチームが健闘を見せた。また、フランスやベルギー、ブラジルといったボールを持てるチームに関しても、効果的にフィニッシュに持ち込んだプレーのほとんどがショートカウンターやカウンタープレスといった、いわゆるトランジションからの攻撃だった。また、リバプールやトッテナム、ローマが得意とするハイライン・ハイプレスというトレンドの戦術に関してはロシアの気候面や環境面などを考慮して採用するチームはほとんどなかった。

▽その一方で、W杯のような短期間の勝負で有効となるセットプレーの戦術に関しては歴代最多の73ゴールが生まれるなど、各チームが積極的に力を入れていた。とりわけ、総得点の半分以上をセットプレーで奪ったイングランドはミスマッチを作るための配置や入れるボールの球種やタイミングなど、その多彩なアイデアが光った。また、空気抵抗によって不規則な軌道を見せる公式球の性質もあり、直接FKからのゴールも多かった。

◆“走る”、“戦う”ことの重要性
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▽最後にテクノロジーや戦術面に関して言及してきた中、今大会で改めて感じたのは“走る”、“戦う”ことの重要性。とりわけ、決勝トーナメントに入って3試合連続で120分間の戦いを強いられたクロアチアは、32歳のモドリッチや再三のロングスプリントを繰り返したペリシッチ、前線で攻守にハードワークを続けたマンジュキッチを筆頭に世界最高峰のタレントが“ここまで走り切るのか”、という胸を打つ戦いぶりを見せてくれた。同様にコスタリカやモロッコ、開催国ロシアといったチームの気迫のこもったプレーぶりはプロ、アマチュアに限らず、多くのフットボーラーの手本となるはずだ。

2018年7月17日(火)18:00

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