★大胆采配も回ってきたツケ、W杯ベスト8に向け残り8カ月で浮き彫りになった課題/日本代表コラム

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「なかなか練習時間が短い中、全てのことを評価するのは難しいと思います。まずは選手たちの姿勢の部分でやってやろうという気持ちでしっかり準備してくれたことを見てあげたいと思います」

試合後にそう語ったのは日本代表の森保一監督。

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「なかなか練習時間が短い中、全てのことを評価するのは難しいと思います。まずは選手たちの姿勢の部分でやってやろうという気持ちでしっかり準備してくれたことを見てあげたいと思います」

試合後にそう語ったのは日本代表の森保一監督。W杯出場を決めたアウェイでのオーストラリア代表戦から、DF吉田麻也(サンプドリア)、DF山根視来(川崎フロンターレ)以外の9名を変更した。

GK川島永嗣(ストラスブール)は今回の最終予選初出場となり、MF旗手怜央(セルティック)は日本代表デビュー戦。MF柴崎岳(レガネス)は4試合ぶり、MF久保建英(マジョルカ)は3試合ぶりと、出番が限られている選手たちがピッチに並んだ。

W杯の出場権を獲得したからこそできた今回の采配。これまで割とメンバーを固定して戦い、出場権獲得という目標に向かって進んできたため、多くの選手を試すということは難しかった。

特に最初の3試合で2敗という苦しいスタートとなってしまっただけに、4戦目のオーストラリア戦から[4-3-3]のシステムに変更し、ケガでの不参加や出場停止を除いてはメンバーを固定してきていた。

苦しい戦いの中でも、試練を乗り越えて出場権を確保したという部分は評価されるべきだが、9戦目まで長引かせてしまったことで、テストする機会を失ったことも事実だろう。

◆良いテストの場に

「チームと選手に望むのはホームで勝って、グループ首位で終わらせるということ」と前日の会見で語っていた森保監督だが、試合は難しいものとなってしまった。

システムは[4-3-3]を踏襲し、日本へ帰国してからのトレーニングでプレーしてきた選手を起用した。

中盤から前の6人に関しては、[4-3-3]にシステムが変わってからは柴崎を除いて初めての先発出場。また柴崎もアンカーで出るのは初めてであり、大きなテストの場となった。

これまでの[4-3-3]の中盤の3枚はボランチタイプの選手が並び、特に守備面での強度が高く、ボールを奪ってからの守から攻へのトランジションは特徴があった。また、ボールを奪い切る力が個々にあるため、局面をひっくり返すことにも特徴を持っていた。

一方で今日の中盤3枚は、どちらかと言えば攻撃に特徴がある選手たち。柴崎、原口元気(ウニオン・ベルリン)、旗手怜央(セルティック)といずれもハードワークができる選手だが、本来の特徴は攻撃面で発揮されるメンバーだ。

また、前線の3人も主軸であれば右に伊東純也(ヘンク)、左に南野拓実(リバプール)と並び、伊東は主にワイドにポジションを取り、南野はワイドから中に入るという戦い方を見せ、右サイドから攻撃を組み立てるという特徴があったが、この試合では右に久保、左に三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)が入ったため、普段とは異なり左で攻撃を作るという形が増えていった。

選手が代われば特徴も変わり、チームとしての戦い方も変わるものだが、この試合では選手たちの意気込みがどこか噛み合わない感覚を覚えた。

全員がアピールということに気持ちが入りすぎたのか、ボールに絡みたがり、ゴールへと急ぐシーンが散見。スペースがなかなか無いというベトナムの守備陣形もあったが、じっくりとボールを出し入れしてポゼッションを高めて崩していくというよりは、個々が仕掛けて行きながら、奪われてしまって攻撃が滞るという展開が前半は続いてしまった。

森保監督は「試合の中でも自分の良さを発揮するという部分、チームの中での競争という部分でも、積極的にプレーしてくれていましたが、なかなかお互いのプレーのイメージを合わせることができなかったということで、難しい状況が続いた」と試合後に振り返ったが、まさにその通り。パフォーマンスが悪かったというよりは、バランスを取れない時間が長く続いてしまい、チームとして機能させることがなかなかできなかった印象だ。

◆W杯ベスト8への道のりは険しい

結果だけを見れば、セットプレーで失点し、最下位のチーム相手に1ゴールしか奪えずに引き分けたということになる。もちろん、勝って首位を確定させたいという思いはあったはずだが、ここまでメンバーを入れ替えれば、こういう結果になることも想定はできていたはずだ。

吉田は試合後「メンバーを大幅に代えたので、チグハグ感が出ることも予想していましたし、今日はチャレンジな試合になると思っていました」と語っており、予想通りだったと振り返った。それでも、試合中に修正する力がなければ、目標とするW杯でのベスト8入りは難しいものになる。

この試合も吉田の勇気ある上がりから、そのまま流れでゴールを奪い切るシーンがあった。徐々に並びを変えたこともあり、リズムができていた中で、主軸組を出してさらにそれを加速させていった。この流れは非常に良いものであったが、逆に言えば前半のうちにここまで修正できなければいけなかっただろう。

常に個々が100%の力を出すということはもちろん理想としてあるが、その力を出すメンバーが11名しかいないとすれば、W杯でのベスト8入りはほぼ不可能と言える。いかにして、チーム全体で高いレベルのパフォーマンスを出せるかが大事になる。

常に崖っぷちで戦うことになってしまった最終予選。タフさというところでは、チームが得たものはあるかもしれないが、多くの選手が代表チームのコンセプトを保って、真剣勝負で勝っていくという点では、ほとんど成果は得られていないと言っていい。親善試合もほとんどなく、常に予選を戦い続けてきた中で、新たな力を試してこなかったツケが回ってきたともいえる。予てから散々懸念してきたものが、改めて浮き彫りになったと言って良い。

誰が出ても変わらぬクオリティをピッチ内で出せることがベスト。短期間で集まって試合を行う代表チームにおいては、チームとしての完成度がレギュラー以外のメンバーにも浸透しているかが重要だ。今のチームは個々の能力、個々の理解はあったとしても、実戦の場が少なく、ベトナム戦のようなことが起きるのも致し方ない。

現にオーストラリア戦も苦しんだ中、最後に局面を打開したのは選手のコンビネーション。川崎フロンターレで共にプレーし培っていた感覚を生かしてゴールを奪い切ったのだ。「絵を合わせていけるように準備しなければ」と常に森保監督は口にするが、それが主力以外の選手にも波及しなければいけない。絵が想像できても、描けなければ意味がない。

今日の試合では、まだまだその力がないことが浮き彫りとなった。この問題を、残りの8カ月、少ない試合でどう解消していくのか。それはトレーニングではなく、実戦でなければ難しいと考えられる。

次の活動は5月から6月にかけてのインターナショナル・マッチデー。4月1日にW杯の組み合わせが決まるため、相手を想定した上での試合が組まれることになるだろうが、数少ない試合で、精度をあげていく必要がある。

クラブでのパフォーマンスを個々の選手が高め、少ない時間で代表チームとしてのサッカーを体現する。それができる選手が多くなれば、チーム力が必然的に向上し、W杯でも結果を残せるようになるはずだ。残された時間は8カ月。ヨーロッパ組は残りシーズンでどれだけインパクトあるパフォーマンスをクラブで見せられるかに注目が集まる。

《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

2022年3月30日(水)6:45

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