★奇跡はホームでしか起きない…/原ゆみこのマドリッド

©Atlético de Madrid
「ダメだわ、これじゃ秘技メトロポリターノマジックが使えない」そんな風に私が嘆いていたのは金曜日、CL準々決勝抽選でアトレティコとドルトムントの対戦が決定。もちろん、マンチェスター・シティと3年連続で対決するお隣さんや、エムバペを連れたルイス・エンリケ監督がPSGを率いて里帰りするバルサを羨むことはなかったものの、2ndレグをジグナル・イドゥナ・パークでプレーしないといけないことがわかった時のことでした。

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「ダメだわ、これじゃ秘技メトロポリターノマジックが使えない」そんな風に私が嘆いていたのは金曜日、CL準々決勝抽選でアトレティコとドルトムントの対戦が決定。もちろん、マンチェスター・シティと3年連続で対決するお隣さんや、エムバペを連れたルイス・エンリケ監督がPSGを率いて里帰りするバルサを羨むことはなかったものの、2ndレグをジグナル・イドゥナ・パークでプレーしないといけないことがわかった時のことでした。いやあ、もうあれだけ絶望視されていた16強対決インテル戦2ndレグで奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)を起こし、準々決勝に進出できただけでも今季は儲けものと言えなくはないんですけどね。

おまけに8強に残った中で一番与しやすしと、どのチームも対戦を望んでいたドルトムントを引き当てたのは幸運だったとしても、実際、相手もアトレティコも国内リーグでは首位から遠く離れた4位なんですよ。テルジッチ監督のチームが5位ライプツィヒと勝ち点1で来季のCL出場権を争っているのも、アスレティックに勝ち点2差に迫られている彼らと似たようなものですし、何より怖いのはドルトムントのチームカラーが黄色だということ。そう、アウェイぼろぼろの今季、シメオネ監督のチームはリーガ前節も降格圏のカディスに負けるという醜態をさらしただけでなく、同じ黄色のユニをまとうラス・パルマスにもカナリア諸島遠征でやられているんですよ。

そのせいで私など、今から4月頭のラ・セラミカでのビジャレル戦を心配していたものですが、かてて加えて、ドルトムントのホームスタジアムでは有名な「Gelbe Wand(黄色の壁)」が立ちはだかることに。となると4月10日の1stレグでは、今季たった1分け1敗しかしていないメトロポリターノの神通力を借りて、3-0、いいえ、5-0ぐらいで勝っておかないと、とても突破はできないかと。そうは言っても、同様の夢を見ていたコパ・デル・レイ準決勝1stレグではよりによって、アスレティックに0-1で負け、案の定、サン・マメスでの2ndレグで3-0とぶちのめされていた記憶もまだ新しいですからね。

過去の対戦成績も2勝1分け3敗と微妙なドルトムントですし、直近2018-19シーズンのCLグルプリーグでもやはりアウェイでは4-0とボロ負けして、ホームで2-0の勝利。たとえ、何かの間違いで準決勝に進出できたとしても、PSG vsバルサ戦の勝者と当たるそちらも2ndレグがアウェイとなると…やはり6月1日のウェンブリーでアトレティコが2016年以来の決勝をプレーすることを望むなんて、とても恐れ多くてできやしない?

まあ、そんな先のことを話していても仕方ないので、とりあえず、水曜のインテル戦がどうだったか、お伝えしていくことにしましょうか。前日、1stレグで1-1と引分けていたバルサがホームのモンジュイックでナポリを3-1と粉砕した後、サン・シーロでの1-0の敗戦を引っくり返すべく、メトロポリターノにインテルを迎えたアトレティコだったんですが、相手はその後もセリアAで4連勝。とうとう今年になってから、13連勝という破竹の勢いで乗り込んで来るというのに、アトレティコファンもやはり、ほぼ無敵のホームでは強気になれるんでしょうかね。

この日もスタジアム入りを大勢がお出迎えして、赤白のbegala(ベンガラ/発煙筒)の煙の中をチームバスは通り抜けて行ったんですが、そのファンの応援に選手たちが見事に応えてくれるとは!いえ、序盤からサムエル・リノ、モラタ、そしてインテル戦1stレグで負ったネンザから復帰してきたグリーズマンらが撃っていったものの、なかなか総合スコアを同点にするゴールは入らなかったんですけどね。それどころか、前半33分には得意のザル守備が発動。バレッラの折り返しのパスをディマルコに決められて、ミラノから来た3400人のティフォシを大喜びさせていたんですが、いやもう、この時は私も目の前が真っ暗になったと言わなかったら、ウソになるかと。

その3分後、「アスレティック戦にも出ようとしたけど、ダメだった。でも今日の試合はチームにもボクにも重要だったから、aunque aún me duele al hacer algunos gestos/アウンケ・アウン・メ・ドゥエレ・アル・アセール・アルグーノス・ヘストス(まだ何がしかの動きをする時、痛むとしても)、ムリしないといけなかったんだ」というグリーズマンがやってくれたんです!そう、コケがエリア内に入れたパスをパヴァールがクリアしようとしたボールが彼の元に落ちて来たところ、体をクルリと回してシュート。それがゴールとなり、再び総合スコアが1-2の1点差になったとなれば、また初心に戻って、同点を目指せば良かったんですが…。

それから全然、ゴールが入らなくてねえ。前半を1-1のままで終わった後、やはりグリーズマン、モラタ、ジョレンテらが後半も決められず、ようやく26分にはデ・パウル、リノをコレア、リケルメに代えてみても大勢は変わりません。時折、カウンターをかけてくるインテルにもトゥラムにフリーで撃たれて、幸い大きく枠を外れてくれるというドッキリシーンがあったため、34分にモラタ、モリーナがメンフィス・デパイ、バリオスに代わった辺りでは、ええ、彼らは土壇場に根性のレモンターダ体質が炸裂するお隣さんとは違いますからね。私もほとんど諦めていたんですが、いえいえ、とんでもない。

何と40分にはシュートをポストに当てていたデパイがその2分後、コケのラストパスから総合スコア2-2に追いつくゴールを挙げてしまったから、もう場内は蜂の巣をつついたような騒ぎに。でもねえ、これだと延長戦になるだけで、何せ昨今は体力不足著しいアトレティコですからね。とにかくあと1点取って、正規の時間内に勝って終わらせてもらいたかったんですが、後半ロスタイム、せっかくグリーズマンが絶妙のパスをリケルメに送りながら、当人がシュートを撃ち上げてしまってはどうしようもありませんって。

ほぼその時点で延長戦入りが確定し、私も30分帰りが遅れるだけでなく、惨めな気分でメトロに乗ることを覚悟したんですが、いやあ、意外でした。この日のアトレティコは疲れを見せず、いえ、延長戦前半にはジョレンテがアスピリクエタに、後半頭からは3週間のブランクもあって、とうとう走れなくなってしまったグリーズマンもサウールに交代しましたけどね。ただ、幾つかチャンスはあったものの、やっぱりゴールは入らず、とうとう最後はPK戦上等のプレーをしていたインテルの思うつぼになってしまうことに。

実際、試合中のPKもほぼ半分は失敗しているアトレティコですからね。PK戦でも2016年CL決勝やスペイン・スーパーカップなどでマドリーに負けている黒歴史ばかり記憶に残っているため、その時は私の思いも延長戦で負けるより、PK戦で負ける方がずっと悲惨という方向にシフトしていたんですが、それがこの日はシメオネ監督の企みがまんまと当たったんですよ。そう、「Aguantamos los cambios porque sabíamos que estaba la posiblidad del alargue/アグアンタモス・ロス・カンビオス・ポルケ・サビアモス・ケ・エスタバ・ラ・ポシビリダッド・デル・アラルゲ(試合が長引く可能性があることを知っていたから、選手交代を遅らせた)」(シメオネ監督)おかげで延長戦を耐え抜いただけでなく、PK戦のキッカーには途中出場の選手を指名。

まあ、その中でもサウールはGKゾマーに止められてしまいましたが、デパイ、リケルメ、コレアがしっかり成功する脇で、あとはGKオブラクの独壇場に。いやあ、これまでPK戦ではほとんど止められず、批判されていた彼でしたが、この日は相当、相手を研究していたんでしょうね。インテルの第2キッカーのアレクシス・サンチェスと第3キッカーのクラーセンを続けて弾き、最後は第5キッカーのラウタロが大きく撃ち上げてしまうって、え?これってもしや、奇跡じゃない(PK戦3-2)?

とはいっても、「La afición no falla, nosotros podemos fallar, pero ellos nunca fallan/ラ・アフィシオン・ノー・ファジャ、ノソトロス・ポデモス・ファジャール、ペロ・エジョス・ヌンカ・ファジャン(ファンはしくじらない。ボクらはしくじることもあるけど、彼らは決してしくじらない)」(オブラク)とか、「全力は尽くすけど、結果を見れば、ボクらがホームで違うチームなのは明らか。Es gracias a la afición/エス・グラシアス・ア・ラ・アフィシオン(それはファンのおかげだ)」(グリーズマン)とか聞かされると、スタジアムで多数派の応援がないとアトレティコは勝てないのかと、頭が痛くなってしまいますけどね。

果てては、「全員がこの態度、プレーの激しさ、集中力でプレーしている時、ウチはアウェイでのチームとは違う」(コケ)なんて言われた日には、外に出ると何でそれができないのか、突っ込みたくもなりますが、まあ、それはそれ。「El equipo lo ha logrado desde el que nadie creía/エル・エキポ・ロ・ア・ログラードー・デスデ・エル・ケ・ナディエ・クレイア(チームは誰も信じていなかったところから、突破を達成した)」(シメオネ監督)というのは事実ですからね。今は褒めておくことにしますが、日曜午後9時(日本時間翌午前5時)にはもう、リーガのバルサ戦がありながら、延長戦疲れで木金練習休みっていうのはいくら、またメトロポリターノ開催だからって、ホームに頼りすぎじゃないでしょうか。

そして他のマドリッド勢の週末の予定についても触れておくと、先陣を切るのは土曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)から、エル・サダルでのオサスナ戦に挑むマドリーなんですが、まあ、こちらはすでに先週にはCL準々決勝進出を決め、ミッドウィークフリーだった今週は余裕でしたからね。リーガも2位ジローナと勝ち点7差の首位とあって、丁度、マンチェスター・シティとの対戦が決まった直後にアンチェロッティ監督の記者会見があったのもタイミングの妙。おかげで2年前はサンティアゴ・ベルナベウでの準決勝2ndレグで奇跡のレモンターダをして、Decimocuarta(デシモクアルタ/14回目のCL優勝のこと)に繋げながら、昨季の準決勝では2ndレグがエティハドだったせいもあったか、0-4の大敗を喫し、結果的に相手がCL初優勝を遂げるという、因縁のシティ戦に関しての質問の方が多くなることに。

まあ、それも仕方なくて、何せオサスナはもう11年もマドリーに勝っていないばかりか、今回はルベン・ペーニャ、ダビド・ガルシア、キケ・バラハ、アイマール・オロスと主力に負傷者が大量発生。となれば、出場停止処分2試合目となるベリンガムがいなくても不足はないかと思いますが、おまけに今節、3位と4位は星の潰し合いをしてくれますからね。あとは同じ土曜にコリセウムにジローナを迎える弟分のヘタフェが頑張ってくれれば、マドリーにとって、最高の形で来週のインターナショナルウィークのparon(パロン/リーガの停止期間)を迎えられることになる?

ただ、前節もバレンシアに1-0で惜敗してしまったボルダラス監督のチームが比較的、得意のホームとはいえ、今は首位奪還を諦め、CL出場圏に留まることに専念しているジローナを押しとどめることができるかどうかは微妙。ええ、エースのボルハ・マジョラルがヒザの半月板負傷で今季絶望になってしまい、ゴールを頻繁に挙げてくれる選手がいないのがやはり、堪えているようですからね。この試合ではグリーンウッドが出場停止から戻って来るのは朗報ですが、マタとラタサには更なる精進を期待するばかり。なるたけ早くあと5つに迫っている勝ち点40に達して、ファンを安心させてあげられるといいのですが。

一方、前線に負傷者がいる訳ではないのに、今季は慢性的にゴール不足に苦しんでいるもう1つの弟分、ラージョは日曜にベティスとエスタディオ・バジェカスでホームゲームなんですが、こちらは前節もアラベスに負けて、とうとう白星なしが9試合に。降格圏とも勝ち点4差になってしまいましたし、イニゴ・ペレス監督も就任から4試合が経ちながら、未だに勝てていないというのも心配なんですが、こればっかりはねえ。

幸い相手のベティスも先週、ビジャレアルに負けて順位を7位に落とすなど、それ程、調子がいい訳ではない上、今回はサバリー、ベジェリン、マルク・ロカを負傷で、チミ・アビラも出場停止で欠いているため、ラージョにも勝機はなくないんですけどね。要注意なのは1カ月半、ケガのリハビリをしていたイスコがついに戻ってくること。1試合1得点がやっとこの現状ではとにかく、絶対に失点を許さず、何とかRdT(ラウール・デ・トマス)やアルバロ・ガルシアが当たってくれることを祈るばかりですが…残り6試合、果たしてバジェカスのファンが「Vida de pirata(ビダ・デ・ピラータ/海賊人生)」を歌って、今季2度目のホーム勝利を祝うことはできる日は来てくれるんでしょうか。



【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

2024年3月16日(土)22:00

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